内外の情勢は、 日本の鍼灸界に日本鍼灸学の構築を要求しています。 日本鍼灸の特色の一つを、 自然治癒力思想を根幹とすることだと考え、 そのルーツを探るのが本発表の課題です。 現在われわれが口にする自然治癒力思想を顧みると、 それは、 中国伝統医学を継承したものではなく、 江戸中期に輸入された蘭学由来のものであるという仮説が浮かび上がります。 幕末に刊行された江戸期最大の養生書 『病家須知』 に記された<自然作用力>というキーワードに着目し、 和田啓十郎の漢方復興運動の論拠となった<自然良能>の思想などを振り返りながら、 日本の鍼灸家が親しんできた自然治癒力思想が、 西洋のヒポクラテス医学のものであることに迫ります。 そして、 江戸期の日本人がヒポクラテス医学の自然治癒力思想を受け入れた背景には、 <邪正一如>という日本独自の治癒力思想があったという仮説も提出して、 検討に供したいと思います。