全日本鍼灸学会雑誌
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特別講演
老年医学と鍼灸
関 隆志
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2010 年 60 巻 1 号 p. 13-22

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抄録

東北大学病院漢方内科では、 誰にでも出来て、 再現性のある鍼刺激を、 様々な疾患の患者に行ったときの生体の反応を観察する研究を行ってきている。 その鍼刺激とは、 毫鍼をツボに垂直に刺して、 手技や刺激などをせずに、 ただ抜針する方法である。
 我々は、 高齢者で問題となっている、 嚥下障害・誤嚥性肺炎、 歩行障害、 緑内障、 排便障害に対し、 鍼灸刺激をしてその効果を検討した。
 脳血管障害に罹患すると嚥下反射が阻害され、 足三里と太谿に鍼刺激を行うとその反射が改善し誤嚥が減少する。 歩行障害のある患者の足三里、 太谿および腎兪に鍼刺激を行うと、 歩行機能とADLが改善する。 緑内障患者の、 太衝、 太谿、 三陰交、 足三里、 腎兪、 肝兪、 風池、 四白、 攅竹、 太陽に鍼刺激を行うと、 眼圧が低下すると共に視力が改善する。
 これらの研究の特色は、
1) 鍼刺激は、 直刺して15分間置針の後に抜針するのみで、 刺針手技や電気刺激などを一切行わない
2) 伝統医学の弁証によらず、 西洋医学の観点から診断した被験者に対して行った鍼治療の臨床試験
 という点である。
 1)は、 針の置針のみでも大きな臨床的な効果を鍼治療はもたらしうることを示唆し、 2)は、 西洋医学の診断に基づいて被験者を選択した臨床試験でも鍼治療の有効性を示しうることを示唆している。
 また、 我々は、 厳密に温度制御できる温熱刺激装置を開発し、 神闕を中心とした部位に温熱刺激を加えたところ、 上腸間膜動脈の血流量が増加することを報告した。
 以上の報告はプレリミナリーなものであるが、 鍼灸治療の大きな可能性を示唆している。
 本邦には内科医と同じくらいの数のはり師、 きゅう師がいるとされている。 鍼灸師には大きなマンパワーがあるのである。 高齢化に伴ってみられる 「老年症候群」 による様々な問題を解決する新しい方法として鍼灸治療を見直すべきではなかろうか。

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© 2010 社団法人 全日本鍼灸学会
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