全日本鍼灸学会雑誌
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報告
肺癌の化学療法に伴う急性嘔気の遷延に対する鍼灸治療の2症例
山崎 翼福田 文彦竹田 太郎石崎 直人山村 義治苗村 健治
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2011 年 61 巻 1 号 p. 68-76

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抄録

【目的】肺癌の化学療法に伴い急性嘔気の遷延を認めた2症例に対して鍼灸治療を行い、 治療効果が得られたので報告する。
【症例】症例1:79歳、 男性。 早期肺癌(腺癌)のため右肺下葉切除術を施行し、 術後補助化学療法が開始された。 制吐薬の投与にもかかわらず、 化学療法開始後24時間以内に、 急性嘔気と胃部不快感が出現し、 遷延したため、 嘔気の軽減を目的として内関、 天枢に鍼治療 (置鍼) 後、 天枢、 中カンに灸治療 (知熱灸) を開始した。 症例2:64歳、 女性。 早期肺癌 (腺癌) の術後4年5ヵ月後に、 左大脳2ヶ所に脳転移による再発を指摘されたため、 γ-ナイフによる治療が行われた。 引き続き、 全身化学療法が開始され、 開始後24時間以内に、 制吐薬の投与にもかかわらず急性嘔気と胃部不快感が出現し、 遷延したため、 嘔気の軽減を目的として天枢、 中カンに灸治療 (知熱灸) を開始した。 なお、 鍼灸治療は、 2症例とも退院期間及び土日を除き、 毎日行った。
【結果】2症例とも、 鍼灸治療を併用した結果、 嘔気は軽減し、 食欲の改善が認められた。 特に、 治療直後において、 VASによる嘔気、 胃部不快感は有意に改善した。
【考察】2症例とも、 化学療法中に制吐薬を投与していたが、 嘔気と胃部不快感が24時間以内に発症し、 24時間以後も持続しており、 これらの症状は急性嘔気の遷延と考えられた。 これらの嘔気は化学療法の継続を制限するほどではなかったが、 患者の食欲を低下させていた。 これらの症状に対して制吐薬に鍼灸治療を併用した結果、 鍼灸治療施術直後の嘔気の軽減とともに食欲の改善が認められた。 このことは、 肺癌の化学療法の施行において、 臨床上の問題となる副作用である急性嘔気に対して、 鍼灸治療が有効な治療法であり、 補完医療としての可能性を示唆するものと考えられた。

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