ヒトの手掌や足底の皮膚を振動すると手指や足指に持続的な屈曲反射が起こる。この反射の出現率は通常の条件では被験者の30%にすぎないが, 指の接触圧の増加や足関節の背屈を行うとこの反射はほとんどの者で誘発された。本研究ではこの反射を鍼刺激効果の判定に用いた。鍼通電刺激の強さは知覚閾値とし, 鍼刺激部位は合谷, 外関等の経穴, またその近傍部とした。一般に皮膚の鍼刺激によってこの振動誘発屈曲反射は強く抑制され, 長い後効果が認められた。経穴とその近傍部の鍼刺激を同時に行うと, その抑制作用に加重効果が認められた。また同一及び隣接の皮膚分節では抑制効果に差はなかった。一方身体各部の鍼刺激では四肢末梢が有効で体幹部は無効であった。以上の結果から, 鍼刺激の振動誘発屈曲反射に対する抑制効果には経穴による特異性は認められず, 脊髄の分節性, 非分節性の抑制機序の存在することが示唆された。