抄録
心臓・大血管手術に伴う脳障害は,発症すると予後を著しく悪化させる.そのため周術期に脳障害の発症を予見し,予防することが求められる.心臓手術後の脳障害を大きく2つのタイプに分類すると(タイプ1:局所神経障害や昏迷,昏睡状態のもの,タイプ2:知的機能低下,記憶障害を呈するもの),その発生頻度は3.1%,3.0%であった.どちらのタイプの脳障害でも,死亡率は増加する.脳障害発症のリスクファクターとして重要なものとしては,年齢,中枢動脈の粥状硬化,intraaortic balloon pumping(IABP)の使用,糖尿病,肺疾患,アルコール多飲歴である.人工心肺の使用は,塞栓や低灌流,炎症反応を惹起することから心臓・大血管手術後の脳障害の大きな誘因となる.Off-pump coronary artery bypass graft(OPCAB)は,塞栓や炎症反応も有意に抑えられることから脳保護的と考えられてきたが,現在では多くの報告から少なくとも低リスク患者ではこの見解は否定的である.大血管手術では弓部置換術の血行再建中にいかに脳虚血を防ぐかが重要である.現在では超低体温循環停止法,選択的順行性脳灌流,逆行性脳灌流が患者のタイプや施設の方針によって用いられているが,どの方法が一番脳保護的かについては結論が出ていない.