日本や英国の妊産婦死亡症例の検討を通して,麻酔科医には手術室における麻酔以外に,妊産婦の死亡を減らすためにいくつかの役割があることがわかってきた.その一つが妊産婦の心肺蘇生への関与である.妊産婦の心肺蘇生は,一般成人における方法におおむね準ずるが,いくつかの相違点がある.(1)子宮左方転位を行うこと,(2)胸骨圧迫部位をやや頭側に置くこと,(3)早期に確実な人工呼吸を確立すること,(4)急速輸液を考慮すること,(5)死戦期帝王切開術を考慮することなどである.除細動や薬剤の投与は一般成人における方法と変わりがない.特に死戦期帝王切開術を行うためには施設ごとの入念な準備が必須であり,その体制の確立において麻酔科医は大きな役割を担うと考えられる.