2015 年 54 巻 2 号 p. 140-145
背景 : 唾液腺基底細胞腺癌は低悪性度腫瘍であり, 遠隔転移は比較的まれと考えられている. 今回肝転移および腹膜播種をきたし, 腹水中に腫瘍細胞が出現した本腫瘍の 1 例を経験したので, その細胞像を報告する.
症例 : 60 歳代, 男性. 画像的に多発肝転移, 腹膜播種による腹水貯留や腸閉塞, 水腎症を認めたが, 原発巣は不明であった. 腹水細胞診および肝生検, 小腸切除が施行された. 腹水細胞診では中~大型の結合性の強い細胞集塊が多数みられ, 一部腺腔様構造や集塊辺縁に柵状配列を認めた. 個々の腫瘍細胞は比較的均一で, 核小体も不明瞭であるが, 細胞は中等大, N/C 比が高く, 核分裂像は集塊部で数視野に 1 個程度認めた. 腺癌を考えたが, 原発巣は特定できなかった. 肝生検, 小腸部分切除検体の組織学的検索では唾液腺基底細胞腺癌あるいは食道や肺などの類基底細胞癌の転移の可能性が示唆され, その後の検索で左顎下腺に原発性病変が確認された.
結論 : 本例では腹水細胞診で組織型, 原発巣の推定は困難であったが, 臨床所見や本腫瘍に特徴的な細胞所見に注意を払い, 本腫瘍が腹腔内に転移する可能性があることを認識することが, 正確な細胞診断を行ううえで重要である.