日本臨床細胞学会雑誌
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症例
乳腺分泌癌の細胞所見の検討
—特に分泌癌類似癌との鑑別について—
山田 智子有馬 信之河野 公成松本 律男志賀 有紗豊住 康夫
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2016 年 55 巻 5 号 p. 322-328

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抄録

背景 : 乳腺分泌癌は浸潤癌の特殊型に分類されるまれな腫瘍である. 若年者に多くみられることから以前は若年性癌と呼ばれていたが, 近年では成人の報告例が多い. 分泌所見が乏しい症例では細胞異型が軽度なため, 良性病変と誤診されることがある. 当院で分泌癌と診断された 3 例の細胞所見を再検討し, その正診率向上のために必要な所見の抽出を試みた.

症例 : 20 歳, 69 歳, 43 歳の女性. いずれもしこりを自覚して来院. 穿刺吸引細胞診では細胞量は豊富で, 2 例はシート状主体に, 1 例は乳頭状集塊で出現していた. 核異型は乏しく, 全例に粘液小球状構造を認めたが, その出現数はさまざまであった. 2 例は鑑別困難, 1 例は悪性と判定したが組織型推定にはいたらなかった. 後日行った遺伝子解析で, うち 1 例にはETV6-NTRK3融合遺伝子が証明できなかった.

結論 : 核異型が乏しく良悪性の鑑別が容易ではないが, 注意深い細胞所見の拾い上げにより分泌癌を推定できる可能性が示唆された. 一方, 形態的あるいは免疫組織化学的に分泌癌に類似した乳癌の存在が示唆され, そのような症例では確定診断のためにETV6-NTRK3キメラ融合遺伝子の検索が必要と考えられた.

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© 2016 公益社団法人 日本臨床細胞学会
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