2020 年 59 巻 3 号 p. 135-140
背景 : 細管状腺腫は小唾液腺にみられる良性腫瘍であり, 大唾液腺での発生は非常にまれである. 組織学的には特徴的な所見を示すが, 小唾液腺も含め細胞像の報告が少ないため細胞診断は困難が予想される. 今回われわれは, 当初鑑別に苦慮した顎下腺発生の細管状腺腫を経験したので細胞所見を報告する.
症例 : 70 歳代, 女性. 左顎下部に腫瘤を認め, 当院耳鼻科を紹介受診した. 穿刺吸引細胞診にて円柱状細胞を含む小型から中型の細胞集塊を多数認めた. 細胞異型は弱く, 集塊辺縁に柵状配列を認めたことからまずは基底細胞腺腫を疑ったが, 腺様囊胞癌や多型低悪性度腺癌などの可能性も否定できず, 疑陽性 (suspicious) で鑑別困難と報告した. その後左顎下腺摘出術が行われ, 特徴的な組織像と免疫組織化学の結果より細管状腺腫と診断された.
結論 : 本例では, 円柱状細胞の単調な像, 断片化した細管状の集塊, 集塊辺縁での柵状配列, 多くの腺腔構造, 密な結合性といった細管状腺腫の細胞学的特徴が観察できた.