1981 年 20 巻 3 号 p. 495-503
乳腺の細胞診は他臓器に比べて, 疑陽性・誤陰性が多く, その大部分は異型性が少ない小型癌細胞と, 増殖の著明な線維腺腫または乳腺症で特にみられる異型細胞, との鑑別が困難であることに起因している. 今回はそれら細胞像を詳細に観察すると同時に, 同一症例にalkaline phosphatase 染色を応用し, 良・悪性細胞における本酵素活性の強さを比較した. 手術摘出物捺印スミアにおける正診率は89.5%で, 誤陰性は1.5%, 疑陽性は9.0%であった. 誤陰性の組織型は乳頭腺管癌で, ALP活性はI3型と良性の性格を示し, 細胞診およびALP活性ともに癌の診断はできなかった. 疑陽性例の組織型は乳頭腺管癌・硬癌・線維腺腫・管内乳頭腫各1例で, 乳腺症はadenosisの著明なものが2例であった, これらのALP活性は癌が2例とも陰性, 良性病変はいずれも活性を認めた. これらの結果からALP染色の併用は鑑別診断の困難な症例においては有益な方法と思われる.