日本臨床細胞学会雑誌
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Wilms 腫瘍1症例の尿細胞診断
畠 栄津嘉山 朝達中川 定明
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1983 年 22 巻 2 号 p. 260-264

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抄録

症例は2歳男児.血尿, 尿意頻数と発熱を主訴として近医を受診した.急性出血性膀胱炎と診断されて治療を受けたが軽快せず, 精検の目的で当大学泌尿器科を受診した.
受診時, 左側腹部に5横指径の辺縁明瞭な硬い腫瘤を認めた.腹部大動脈造影で左腎動脈の著明な下方偏位, 腎の下極血管の高度な乱れ, 不整血管などの像が認められた.
尿の遠心沈澱の塗抹標本には赤血球, リンパ球を背景とするなかに腫瘍細胞が集合性および散在性にみられた.
集合性の腫瘍細胞は小型で, N/C比が大きく, 細胞境界はやや不明瞭で, 細胞質はライト緑に淡染, 核は円形から楕円形, クロマチンは顆粒状または濃縮状で, 核小体は認められず, 未熟な上皮細胞様の像であった.
散在性の腫瘍細胞は類円形または紡錘形を呈し, やはりN/C比が大きいが, 細胞境界は上記の集合性細胞よりも明瞭であった.核・クロマチンなどは集合性の細胞と同様の所見であったが, これらの細胞は, 散在性であるという点では間質細胞に似ていた.
以上のように2つのパターンを示す腫瘍細胞がみられたということから, Wilms腫瘍と診断した.そこで泌尿器科医は, 他の諸検査所見もあわせて判断し, 左腎摘出術を行った.
摘出された腫瘍組織は, 全般に比較的小型の未熟な腫瘍細胞からなっていた.一部では管状配列またはロゼット様パターンを呈していたが, 紡錘形, あるいは星芒状の細胞からなる間質細胞様配列を示すところが多かった.これらの像から, nephroblastoma (Wilms'tumor) の腎芽型, 小巣亜型と診断した.
化学療法と放射線照射によって軽快退院し, 現在, 術後2年6ヵ月で再発の徴候はなく, 経過良好である.

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