日本臨床細胞学会雑誌
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体腔液細胞診におけるエステラーゼ染色の応用
特に腺癌細胞と組織球との鑑別について
小林 晏馬場 哲郎坂井 邦彦
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1983 年 22 巻 4 号 p. 744-752

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抄録

体腔液細胞診において腺癌細胞を組織球と鑑別するため, エステラーゼ染色を行いその有用性を認めた
1. 組織球では, 多数の茶褐色の顆粒が胞体内に密にみられたが, フッ化ソーダによる阻害試験を行うと完全に阻害され消失した.一方, 腺癌細胞と中皮細胞では通常陽性顆粒を全く認めないか, 時に認めても数えられる程度 (約30個) で容易に組織球と鑑別できた.しかもこれらの少数の顆粒はフッ化ソーダにより全く阻害されなかった.
2. フッ化ソーダで阻害される褐色顆粒を有する細胞の数は, ラテックス粒子 (墨粒) 貪食細胞の数と一致するか幾分少ない.これは異物を胞体内に取り込む能力を持つ細胞でも, その幼若性やライソゾーム顆粒の崩壊によってエステラーゼ酵素を保有しない細胞もあると考えられた.
3. これらの細胞は走査型電顕像では特有の膜状のひだからなる表面構造を示し, 透過型では多数の長い微絨毛と胞体内に多数のライソゾーム顆粒を保有していた.
4. 解剖材料を用いていろいろな臓器の捺印標本を同様の方法で染めると, 扁平上皮, 移行上皮, 腎尿細管上皮, 肝細胞などにおいて, 多くてもわずかの陽性顆粒しかみられず, しかもフッ化ソーダで阻害されなかった.
以上のことから非特異性エステラーゼ染色のそのフッ化ソーダ阻害試験の併用は, 組織球に極めて特異的な染色法であり, 体腔液中の腺癌細胞のみならず, 肝細胞癌, 扁平上皮癌, 移行上皮癌, 悪性中皮腫など他の悪性細胞との鑑別に有効であると考えられる.

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