日本臨床細胞学会雑誌
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鰓のう胞乳頭腺腫の1例
鈴木 利光
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1985 年 24 巻 3 号 p. 534-538

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抄録

胎生期の鰓裂に由来する鰓のう胞は側頸部に出現し, 臨床的には側頸部のう胞としてとり扱われ, まれに癌化することがある.発生する癌は文献上すべて扁平上皮癌であるが, 最近, 粘表皮癌の1例も報告されている.しかしながら, 現在までのところ, 鰓のう胞の良性上皮性腫瘍の記載はいまだないようである.したがって, ここに報告した19歳男子左側頸部の鯉のう胞に認められた乳頭腺腫が最初の症例と思われる.本例の吸引細胞診では孤在性の扁平上皮由来の異型細胞と, ほぼ円形, 均一な細胞からなる軽度重積性の細胞塊とがみられた.組織学的に乳頭腺腫はのう胞の一部に限局し, 石灰沈着, 扁平上皮化生を伴っていたが悪性所見はみられなかった.腺腫の一部は管状でありこの部には酸性粘液が証明された.腺腫以外の部は表層に異型上皮をもつ扁平上皮と, 1~2層の立方上皮に覆われていた.吸引細胞診ではこれらの細胞が出現していた訳である.
鰓のう胞癌にはこれまで報告されてきた扁平上皮癌あるいは粘表皮癌のみならず, 本例の存在から考えて, 腺癌あるいは腺扁平上皮癌の発生する可能性が指摘された.

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