酵素抗体法を用いて心膜原発の悪性神経原性腫瘍と診断し得たまれな1症例を経験したので, その細胞診学的および組織学的特徴について報告する.
症例は54歳の女性で, 呼吸困難を主訴として来院し, 著明な心拡大がみられた.種々の検査から臨床的には縦隔腫瘍が疑われた.手術時の所見では腫瘍は完全に心嚢腔内にのみ限局し, 心前面に位置し, 白色軟, 易出血性で脂肪組織へ浸潤していた.また, 265mlの血性心嚢水を伴っており, 細胞診では均一な細顆粒状のクロマチンを示し, 偏在する核を有するN/C比の比較的小さなきわめて大型の腫瘍細胞がみられ, 中皮由来の細胞とは明らかに異なっていた.組織学的には腫瘍は紡錘形細胞から成り, 細胞密度は高く, 分裂像も多数みられたため悪性腫瘍と判断され, しかもS100蛋白陽性細胞が散在性にみられることから神経原性と診断された.