胸水中に腫瘍細胞のみられた甲状腺髄様癌の1例を経験した.
症例は38歳の男性で, 左臓下リンパ節の腫脹に気付き受診.入院後諸検査の結果, 甲状腺髄二様癌と診断され, 左葉切除およびirradiationを施行された. その後転移再発, 治療を繰り返し, 初発から6年後胸水出現, 胸水中に腫瘍細胞を認めた.
胸水細胞診のPap. 標本では, 腫瘍細胞は不規則疎な集団としてみられ, 紡錘形の細胞質に円形の核をもち多形性は乏しい. クロマチンは細ないし粗顆粒状で, 核小体は不明瞭M.G.Giemnsaでは一部の細胞に微細な赤色顆粒を認める. PASでは細胞質辺縁部に顆粒状に陽性所見を呈する. コンゴー赤では陽性物質を認めなかった. 酵素抗体間接法によるCEA染色では細胞質にび漫性に明瞭な陽性所見を呈する.
以上から, この腫瘍細胞は顆粒状の細胞質と粗顆粒状のクロマチンが特徴的であり, 酵素抗体法は鑑別診断の一助となると考えられた.