卵巣未熟奇形腫は, 多彩な組織学的所見を示し, 臨床経過も種々であるが, 腹水細胞診が予後推定に有用であった症例を経験したので報告する.
患者は29歳主婦.右卵巣未熟奇形腫, stage Ic, grade 3の診断で, 右付属器摘出術+左卵巣模状切除術を行った. 奇形腫の未熟組織は神経成分のみであった. 手術後VAQ療法を4クール行ったが, 終了4ヵ月後リンパ節転移とLDH上昇をきたし, PVP療法を6クール行った。LDH下降, リンパ節やや縮小したものの, 再度LDH上昇, 急激な腹水貯留, イレウスを呈し, 手術より1年5ヵ月後消化管出血にて死亡した.
腹水細胞診では, 原発巣の捺印細胞診と同様の神経芽細胞腫に似た細胞像であり, また腹水のcell block中の腫瘍細胞では, PAP法によるs100タンパクが染色されたことから, 未熟神経成分の腹膜への播種と診断した. 剖見所見でも, 腹腔内への播種は未熟神経組織でほかの成分はなかった. そして今回の症例では, LDHがAFPより腫瘍マーカーとして有用であった.