1987 年 26 巻 4 号 p. 659-663
35歳の男性が乾性咳嗽と微熱を主訴とし, 当院を受診した. 理学所見では, 脈拍数が109/分と頻脈で, 胸部聴診上全肺にわたり気管支呼吸音の増強が認められた. 表在リンパ節は触知しなかった. 血液検査では肝機能の軽度障害, CRP (2+), CEA (EIA) 42.0ng/mlなどの異常がみられた. 胸部X線写真では両側肺門部から肺野にかけて小粒状陰影および浸潤陰影, 心陰影の拡大, 両側胸水の貯留がみられた. 気管支鏡検査では気管分岐部から右気管支全体にわたる発赤, 浮腫状変化, 小隆起性病変などが観察された. 喀痰細胞診では孤立散在性にオレンジGやライトグリーン好性で, 胞体が厚く粘液様空胞をもつ悪性細胞がみられ, 擦過細胞診では層状の配列を示す悪性細胞がみられた. また, PAS陽性物質が認められた. 剖検により, 本症例を胃原発の腺扁平上皮癌, 癌性リンパ管症, 癌性胸膜炎, 癌性心膜炎と診断した. この症例にみられた細胞診所見にっき検討を加えた.