症例は56歳男性で発熱を主訴として来院した. 7年前に胆嚢穿孔にて手術を受けている. 来院時体温37.4度, 白血球増多, CRP陽性, 血沈の昂進などの炎症所見があり, 腹部CT, 超音波検査, 血管造影で肝左葉に径6cm大の腫瘤を認めた. 穿刺吸引細胞診所見では, 大型な長円形, 紡錘形の細胞が散在性に認められ, 核は増大し, なかには好酸性に染まる大きな核小体があり, class Vと判定した. 穿刺肝生検組織所見では繊維細胞の増生と小円形細胞浸潤像, 多核巨細胞が認められ肉芽腫と診断し腫瘤切除術を行った. 摘出腫瘤は9×7×4.5cm大で繊維性の被膜に覆われ, 弾性軟で割面は黄白色であった. 組織学的には膠原繊維, 繊維芽細胞の増生とリンパ球主体の高度な細胞浸潤像, また多数の多核の巨細胞, そして散在性に石灰化巣などが認められ, 炎症性肉芽腫と診断した. 自験例の細胞診像をretrospectiveにみると, 細胞, 核, 核小体の増大が著しく良性との断定は困難であるが, クロマチンの増量, 凝集は軽度であり再生性の変化と判断すべきであった. 今後, 肝腫瘤の細胞診像の検討にあたり, まれではあるが炎症性偽腫瘍も念頭におくべきと考えられた.