本症例は44歳, 男性で斜台に発生した脊索腫である. 手術時の捺印細胞診で腫瘍細胞は好酸性細胞質, 小型の円形の核, 細胞表面には繊毛様構造を有していた. 迅速凍結標本でもこれらの腫瘍細胞は立方状, 円柱状を呈し柵状配列をとり, 細胞表面には同様の繊毛様構造を有していた. ホルマリン固定標本によるヘマトキシリン・エオジン標本ではPAS, AIcianblueに濃染する軟骨様基質に埋没するような星荘状の腫瘍細胞を認めたが, これらの細胞には明らかな繊毛様構造は認めなかった.
脊索腫は細胞診診断上, 臨床像, 部位, 肉眼所見から困難ではないが, 本症例のように捺印細胞診, 凍結迅速標本で細胞縁に繊毛様構造物をみたことは腺癌の頭蓋底転移と鑑別する必要がある. また, 予後の上で脊索腫は軟骨様, 非軟骨様の2型に分けることは重要であるが, 本症例では細胞診レベルの型分けは困難であった.