症例は51歳, 女性. 右乳腺悪性葉状腫瘍にて単純乳房切除術施行. その後, 左腋窩, 左鎖骨下リンパ節, 右肺門部と転移を繰り返し, 17ヵ月後, 右胸水貯留を認めた. エコー下に胸水穿刺を施行し細胞診検査を行った. 患者は術後18ヵ月で呼吸不全のため死亡した.
原発腫瘍巣から得られた細胞診標本では, 腫瘍細胞と乳管上皮とからなり, 腫瘍細胞は紡錘形で大小不同が著しく, 胞体がレース状で辺縁不明瞭, 不規則な突起が観察された. 核は紡錘形~楕円形のものが多く, クロマチンは粗顆粒状で不均等に分布し, 核縁の肥厚はみられなかった. 明瞭な大型の核小体 (円~不整形) が1, 2個観察された. 多数の多核細胞も認められ, 典型的な悪性葉状腫瘍の像を示した. 一方胸水中の腫瘍細胞は結合疎な平面状集塊として出現した. 細胞は小型化し, 核の円形化がみられ, 多核細胞の減少がみられた. 乳管上皮は観察されなかった. 電顕的, 免疫組織化学的検索の結果, 腫瘍細胞はmyofibroblastの特徴を示した.
本症例の胸腔内転移の経路については, 臨床的に血行性転移や胸壁を介した胸腔への浸潤は認められず, リンパ節転移を繰り返していることから, リンパ行性に肺門あるいは縦隔リンパ節に転移し, 胸腔内に播腫したものと考えられ, まれな転移経路をたどった葉状腫瘍の1例である.