播種性トリコスポロン症の1例を報告する.患者は75歳男性で, 薬剤性肺炎の疑いで副腎皮質ホルモンを投与されていたが, 呼吸不全のため死亡した.生前, 血液培養でTrichosporon beigeliiが, また尿培養でT. beigeliiとCandida albicansが分離されている.剖検により, 心, 腎, 肺, 甲状腺にトリコスポロンの菌要素が, 膀胱では多数のカンジダと少数のトリコスポロン菌要素が見い出された.腎の病巣の塗沫細胞診によって, トリコスポロン酵母状要素の不整な形や, 大小不同が認められた.ねじれを伴った有隔性分岐性菌糸や分節型分生子も確認された.上記菌要素の形態は単独でもトリコスポロンとしてかなり特徴的で, その形態的特徴を確認するためには細胞診が優れており実際的である.特に最も発見頻度の高い酵母あるいは菌糸が単独で発見された場合, 細胞診で得られる形態的情報は診断のために有用と考えられる.