今回比較的まれな胸腺癌の1例を経験したので, その細胞像を中心に報告する.症例は50歳女性の肝臓への転移を伴った縦隔腫瘍で以下の検討より下里らの提唱する胸腺癌と診断された.すなわち, 縦隔の穿刺吸引細胞診では, 比較的小型の異型性のある上皮細胞が認められ, 顕著な核小体を有していた.背景には, 特にリンパ球は認められなかった.また, 肝腫瘍生検の捺印細胞診でも同様な細胞所見が得られ, 組織診では腫瘍細胞の核分裂像が多数認められた.腫瘍細胞は免疫組織化学的にケラチン (+), Leu-7 (-) で, 電顕的には上皮性特有のトノフィラメントとデスモゾームが認められた.以上より, 本例の診断に細胞診上の細胞形態, 異型性の観察はもちろんであるが, リンパ球の有無などの背景の観察や免疫組織化学的所見が胸腺癌を確定または推定するうえで重要と考えられた.