日本臨床細胞学会雑誌
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乳腺の紡錘細胞癌の1例
穿刺吸引細胞像を中心として
及川 守康笹生 俊一菅井 有安保 淳一石田 茂登男
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1993 年 32 巻 6 号 p. 1031-1036

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抄録

乳腺の紡錘細胞癌を, その穿刺吸引細胞像を中心として, 病理組織学的所見, 免疫組織化学的所見さらに電顕的所見を加えて報告した.
症例は57歳の女性で, 検診にて左乳腺腫瘤が発見された.穿刺吸引細胞診で, 細胞は散在性, 一部小組織片としてみられ, 腫瘍細胞は, 線維状, 長紡錘形, 多辺形を示し, 多核巨細胞を含み, 大小種々の大きさで, 異型性が強く, 肉腫が疑われた.摘出された腫瘍は大きさが2.5×1.5cmで辺縁明瞭な灰白色調充実性腫瘍であった.組織学的に, 周囲との境界明瞭な腫瘍内には線維性長紡錘形細胞が束をなして種々の方向に走り, 多核巨細胞が混在していた.この病巣の外側部に浸潤性の乳頭腺管癌の小部分が認められ, 紡錘細胞癌と診断した.免疫組織化学的に肉腫様細胞はvimentinとactinが陽性, 一部の細胞にkeratinとS-100蛋白の陽性像をみた.乳頭腺管癌の部位では癌細胞はEMA, CEA, CA15-3が陽性を示した.電顕的に, 肉腫様細胞はr-ERの発達が強く, 一部の細胞にフィラメントおよびdesmosome様構造を含む細胞接着装置が認められた.
本例のように穿刺吸引細胞診で肉腫を疑わせるような異型細胞だけが採取された時の紡錘細胞癌の診断はむずかしく, これらを含めて考察を加えた.

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