嚢胞を伴う乳癌を細胞形態学的に検討した. 当院で最近6年間に手術された乳癌162例中6例 (3.7%) に癌病変に伴う径1cm以上の嚢胞を認めた. これら6症例のうち3例は嚢胞内腔に隆起する癌病変があり嚢胞内乳癌に相当する病変で, 組織型はすべて乳頭腺管癌であった. 2例では嚢胞内腔に隆起する病変がなく, 癌は壁の一部に存在し, 組織型は充実腺管癌と非浸潤性乳管癌であった. 以上5例は嚢胞液の細胞診を行い4例に陽性, 1例に境界域の異型細胞を認めた. 残りの1例は腫瘍内部の壊死により嚢胞化した症例で組織型は扁平上皮癌であった. この症例は皮膚に浸潤しており皮膚潰瘍部の擦過細胞診で悪性細胞を認めた. 以上6例の乳癌は術前細胞診で全例異型細胞が認められ, 細胞像は組織所見をよく反映した. 中でも嚢胞壁に癌が存在しながら嚢胞内に隆起する病変がなく臨床的に癌巣を認識できない例では細胞診が特に有意義と考えられた. このような症例は嚢胞内乳癌の前段階である可能性が推測された.