日本臨床細胞学会雑誌
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中枢神経系細胞診のための基準像作成の試み
稲垣 貴子大津 久美子原 正道下山 潔原田 章子清水 薫田山 三郎
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1996 年 35 巻 2 号 p. 105-113

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抄録

中枢神経に病変のない剖検脳6例を用い, 中枢神経系細胞診の基準像の作成を試みた. 剖検時に11箇所より組織を採取し, 圧挫・捺印・組織標本を作成した. すなわち, 終脳, 小脳, 基底核, 視床, 黒質, 脊髄 (前角), 脈絡叢, 松果体のそれぞれについて細胞・血管を観察した. また, 終脳・小脳・基底核・視床については, 400倍で30視野を観察し一視野平均細胞数と一視野平均百分率を算出した. さらに, 組織標本と脳腫瘍 (良性星状膠腫: GradeI~II, 悪性星状膠腫: GradeIIIをそれぞれ3例用いた) について同様に観察し基準像との比較検討を行った.
観察検討の結果, 圧挫・捺印標本の背景像, 部位による細胞数・種類, 血管数・性状を明らかにした. 神経細胞とグリア細胞の合計一視野平均細胞数は圧挫標本で終脳皮質108個, 同髄質130個, 大脳基底核83個, 視床77個, 小脳皮質405個, 同髄質133個であった. 捺印標本では終脳皮質66個, 同髄質58個, 大脳基底核65個, 視床50個, 小脳皮質222個, 同髄質116個であった. 血管数は圧挫標本で約1.0本, 捺印標本で約0.5本であった.
また, 基準像と脳腫瘍の比較で良性星状膠腫 (GradeI~II) ではわずかに基準像との間に差がみられ, 悪性星状膠腫 (GradeIII) になると明らかな差がみられた. また, 血管数・血管内皮細胞の増加もそれぞれで認められた. この結果, 腫瘍の細胞像判定の基盤として基準像が有用であることが明らかになった.

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