日本臨床細胞学会雑誌
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尿中細胞診で移行上皮癌との鑑別が困難であった浸潤性前立腺癌の1例
桜井 孝規広川 満良三上 芳喜福屋 崇畠 榮鐵原 拓雄
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1996 年 35 巻 3 号 p. 257-261

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抄録

症例は80歳の男性で, 約1年前より前立腺の高分化腺癌のためホルモン剤の投与を受けている. 経過中にきたした肉眼的血尿のため, 尿細胞診検査を受けたところ, 異型性の強い腫瘍細胞塊の出現がみられ, 移行上皮癌の合併と考えられた. その後, 膀胱内に突出する腫瘤部よりの生検で, 腫瘍細胞が免疫組織化学的にProstate-specific Antigen (PSA) 陽性であったため, 低分化前立腺癌の膀胱浸潤と判断した. その尿細胞像をGrade3の移行上皮癌と比較して検討したところ,(1) 背景には壊死が少なく, 異型性のない移行上皮もみられたこと,(2) 異型性の強さに比して結合性が保たれていたことが, 典型的な移行上皮癌よりも, むしろ他の腫瘍の可能性を示唆するものと考えられた. 前立腺癌の経過中の尿細胞診にて, 異型の強い細胞集塊を認めた場合, 既存の前立腺癌がより低分化なものへと形質変化した可能性を念頭に置くことが大事と考えられた.

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