日本臨床細胞学会雑誌
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転移巣にて肝様腺癌の像を示したS状結腸高分化腺癌の1例
中川 雄伸坂下 直実中村 治宮田 恵美田中 真紀子徳永 英博陣内 克紀高橋 潔
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1999 年 38 巻 6 号 p. 540-546

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抄録

転移巣において肝様腺癌の像を呈し, 細胞学的な特徴から病理細胞学的診断をなし得たS状結腸腺癌の1剖検例を報告する.症例は60歳の男性で, 平成5年他医にて大腸癌の診断のもとにS状結腸切除術を受けた.2年後, 肝転移が発見されたため肝左葉追加切除が行われ, さらに1年後, 新たな転移巣が左前胸壁に出現した.このため, 精査加療の目的で熊本大学医学部附属病院に入院した.前医にて行われた組織検索の結果はすべて高分化腺癌で, 当院入院時の精査にて, 血清α-fetoprotein (AFP) が41,000ng/rn/と異常高値を示していることが判明した.延命を目的に化学療法が施行されたが, 効果なく, 呼吸不全にて死亡した.剖検時の肺/胸壁の転移巣の捺印細胞診では, 高円柱状で核小体腫大を示す高分化腺癌細胞と胞体内にライト緑好性の硝子体を有する肝細胞癌類似の腫瘍細胞とが認められた.転移巣の腫瘍細胞の大部分は髄様増殖を示す低分化腺癌の組織像を示し, 免疫組織化学的にAFP陽性を示したが, 一部にAFP陰性で明瞭な腺管構造を形成する高分化腺癌もみられ, 両者間には移行像が認められた.本症例はS状結腸原発の高分化型腺癌で, 転移巣は肝様腺癌の組織像を示し, 転移巣の病理細胞学的解析から原発巣の肝細胞への分化を裏付ける細胞学的根拠が得られ, 細胞診が診断確定上有用であったと考えられた.

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