背景:アポクリン癌の形態を示した非浸潤性乳管癌の症例を経験したのでその細胞像を記載し, 特に良性アポクリン化生細胞との鑑別について文献的考察を加え報告する.
症例:74歳女性で, 主訴は右胸痛であった. 穿刺吸引細胞診では, 背景に壊死様物質が多量にみられ, 細胞採取量は豊富であった. 細胞集塊の結合性は弱く, 重積性があり, 細胞集塊の辺縁, 細胞境界は不明瞭であった. 細胞質は細穎粒状~泡沫状で, 一部はエオジン好性を示していたため, アポクリン癌が疑われた. 摘出標本の組織診では非浸潤性乳管癌であり, アポクリン化生部分が優位を占めていた.
結論:細胞像による良性アポクリン化生細胞とアポクリン癌細胞の鑑別に特に有用な所見は, 細胞集塊の結合性, 重積性, 辺縁, 細胞境界と考えられた. 組織学的にアポクリン化生は良性病変の指標と考えられる場合があるので, 細胞診による鑑別は重要である.