背景:多形腺腫は唾液腺領域にて最も頻度の高い良性腫瘍であるが, 典型例の穿刺吸引細胞像はMay-Giemsa染色 (以下Giemsa染色) において異染性を示す間質性粘液成分とともに緩い結合性を示す上皮性細胞集団が出現し, 集団の辺縁や背景の粘液中に異型に乏しくさまざまな形態を示す筋上皮細胞が認められるのが特徴で, 大部分の症例では穿刺吸引細胞診による確定診断が可能である. しかし, 多形腺腫はその構成成分の一つである筋上皮細胞の増生パターンの違いから多様な組織細胞像を示し, 細胞診断上種々の腫瘍との鑑別が必要となることがある.
方法と成績:われわれは吸引検体の細胞所見および組織学的特徴から多形腺腫の多様性を1) 小型筋上皮細胞の増生, 2) 紡錘形筋上皮細胞の増生, 3) 形質細胞様筋上皮細胞の増生, 4) 異型筋上皮細胞の出現, 5) 扁平上皮化生の出現, 6) 基底膜成分優位な間質の増生, 7) 粘液の貯留した偽腺腔の形成一の7型に分類しそれぞれについて吸引細胞診における鑑別診断を検討した.
結論:唾液腺穿刺吸引細胞診ではこのような多形腺腫の多様性を念頭に診断にあたるべきと考える.