背景:胸腺腫に胸腺癌の発生することはきわめてまれである. 今回その1例を経験し, 細胞像を検討したので報告する.
症例:20歳の男性で, 学校検診にて胸部レントゲン写真の異常陰影を指摘された. 血清SCC, CYFRAの腫瘍マーカーが高値を示し, 穿刺吸引細胞診と針生検にて胸腺腫と診断され, 腫瘍摘出術が施行された. 摘出腫瘍は12cm大で, 肺の臓側胸膜とは癒着, 浸潤像はなかったが, 心嚢側には異型の強い上皮細胞が, 充実集塊状に増生する部分がみられ, 辺縁に血管浸潤像を伴っていた. 腫瘍捺印細胞診にて, 多数のリンパ球を背景に, 上皮結合を示す細胞集塊の中に核小体の目立つものや, 濃染した巨大核を有する異型細胞を認めた. 免疫染色では, EMA, CD5, KL67, p53が異型の強い上皮細胞に陽性反応を示した. その後化学療法が施行されたが, 両肺転移と胸水貯留がみられ, 胸水細胞診にて摘出腫瘍の細胞像と同様の悪性細胞がみられた. 1年3ヵ月後, 全身転移をきたし, 死亡した.
結論:既存の胸腺腫から胸腺癌の発生することはまれであるが, 胸腺細胞診において, 大型で悪性を示唆する異型細胞をみたとき, 胸腺癌の可能性を考える必要がある.