日本臨床細胞学会雑誌
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Cytotechnology Training in the United States: Challenges and Opportunities
Shirley E. Greening
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2004 年 43 巻 6 号 p. 415-421

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抄録

アメリカにおける細胞診断教育 (Cytotechnology Education) は, 従来の形態を中心としていた細胞検査士 (Cytotechnologist) 養成から, 新技術に基づく細胞科学者 (Cell Scientist) 養成への転換期を迎えている.
細胞診断教育の将来を予測するには, はじめに現状の教育を考えることが必要である. 現在, 46の教育プログラム (EP) が稼働している. 教育期間は11~24ヵ月, 教育機関は大学および病院検査室が半ばしている. 18のEPは学士が入学条件で, 2つのEPは卒業で修士称号を授与している. 授業料は無料から年2万ドル以上と幅がある. なお, 卒業後の年収は, 4万~6万ドルである. 年間の卒業生数は, 02年が250人で, 細胞検査士の充足度は十分でない.
EPの信頼性を保証するために, すべてのEPはAme. Soc. ofCytopathologyとCAAHEPで標準を満たしているかの検討がなされる. この認証を得ることは, 授業料の補助から就職に関係するので, 大切なことである. EPは年次報告を行わなければならないが, 国家資格試験の合否や就職状況まで含んでいる.
最近の教育傾向は, 従来の内容に加えてDNA診断やフローなどの新技術を教えている. Jefferson大学では学生に組織診断も教育している.
細胞検査所は, 公の資格取得者を雇うようにしており, アメリカ政府も検査所で業務を行う者は認定された学校の卒業生が条件と規定している. 検査所運営にあたり, 検査所および細胞検査士についての規制がある. 細胞検査士は婦人科の陰性症例を報告できるが, 反応性の細胞変化以上は病理医の判断を仰ぐとしている. 1日100枚以上の検鏡を禁じ, さらに検鏡時間とその数の記録を義務づけている. 非婦人科症例は, 全例病理医の判断を求めている.
スクリーナーの仕事から始めて, 経験を積むに従い能力や興味により管理, 研究や営業を主体に行う者もいる. 検査所を開設したり細胞診の教育を専門とする者もいる.
次に将来像について述べる. 当然, 時代の要請と技術革新で細胞検査士の在り方が変化しなければならない. 検査所によっては, 細胞検査士にスクリーニングでの効率と経済面での貢献のみを求めるが, 一般に, 現在の現場ではより幅広い分野での教育が望まれている. 教育機関としては, その要望に応えようとして分子生物学や細胞診自動化等を含めてさまざまな取り組みを実践している.
Ame. Soc. of Cytopathology's Education Task Force (2001) は, 細胞検査士が取得すべき事項の再評価を実施した. 細胞検査所の役割の設定や細胞教育者養成戦略の展開などの目標を定めた. この目標を達成するためには, 遠隔での教育, バーチャル顕微鏡, 免疫組織化学や分子生物学的診断等の教育を取り入れなければならない.
現実問題として, 細胞や組織の形態学診断は必要事項であるが, 一方で新技術についても徐々に取り上げていく方向が必要である. この新技術の習得を通して, 真の細胞科学者になるし, また, そのような状態になれば細胞検査士もさらに充実した職種に変わっていける. 新しい細胞科学者像の完成は, 教育施設のみでは行いがたく, 資格認定試験やEPの再考等で行わなければならない.
細胞診業務は, 経済面, 法的面や各種の規制等に影響を受ける. 短期的には形態診断の必要性を認めるが, 長期的には新技術が一般化することが予想できるので, 教育の場に取り入れなくてはならないことに疑問の余地はない.

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© The Japanese Society of Clinical Cytology
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