2010 年 24 巻 3 号 p. 12-22
要 旨
本研究の目的は,外来で分子標的治療を受けている患者にナラティブ・アプローチを試みることで,患者の語りに生じる変化から現実を構成していく過程を明らかにすることである.
研究デザインは,看護実践と研究を結びつけた実践的看護研究で,質的帰納的なデザインとした.データ収集として,おのおのの対象者4名にナラティブ・アプローチによる面接を最低3回行い,語りを質的帰納的に分析した.
その結果,時系列でつないだ文脈のある語り(サブタイトル)は全部で73個であり,主要なナラティブは自らががんであることをどのように受け止め,どのような信念に基づいて生きていくべきか,つまり患者自らが生きている信念から構成されていた.同時に,がんと診断される前と同じような日常性を維持することで,自らをコントロールしながらも,日々揺れ動く感情に気づくナラティブがあった.
不確かで長い経過を辿ることを余儀なくされている外来で分子標的治療を受けているがん患者が確かな現実を歩むうえで,ナラティブ・アプローチは,さまざまな思いに直面しながら自ら見出した自己の生き方や信念を確信し,それらを引き受けるよう支援する働きがある.つまり外来看護をする際には,限られた時間であっても,その都度,患者の生き方や信念を支持していくという姿勢を保持することが重要であると示唆された.