2016 年 30 巻 2 号 p. 53-62
要 旨
本研究の目的は,ホスピス・緩和ケア病棟(以下,緩和ケア病棟)に勤務する看護師が,認知症とがんを併せもつ患者の看護において抱く困難と対処過程を明らかにすることである.
緩和ケア病棟において,認知症とがんを併せもつ患者の看護経験がある看護師12 名を対象に半構造化面接を行い,エスノグラフィーの手法を用いて分析した.
その結果,看護師は,認知症とがんを併せもつ患者の看護について〈今までのやり方が通じずやっかいに感じる〉困難をもち,〈培った経験を活かしつつやれるケアを試行錯誤する〉ことで対処していた.この対処を支える気構えは〈苦痛を緩和して穏やかさを得ることに徹するしかない〉であった.対処の結果,看護師は〈諦めなければ認知症の特徴を捉えた緩和ケアの実践ができる〉感覚を得ていた.一方で〈尽力してもケアや薬剤の効果の実感が得られない〉と感じる看護師も存在し,〈最期は看護の重点を家族に移す〉対処をとった.いずれも最期は,〈家族と信頼関係を築き家族の満足いく看取りとなる〉という困難と対処過程が明らかとなった.
認知症とがんを併せもつ患者の看護において看護師の困難を減じるためには,ケアの成果の実感がもてるよう認知症のBPSD とせん妄について学ぶことや,院内外の他職種と協働できる体制整備の重要性が示唆された.