犯罪社会学研究
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貧困・生活不安定層における子どもから大人への移行過程とその変容 (課題研究 貧困と犯罪・非行)
西田 芳正
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2010 年 35 巻 p. 38-53

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抄録

格差,貧困が深刻さの度合いを増すなかで,非行,犯罪の増加が懸念されている.雇用の喪失が希望の喪失につながり問題行動が増加するという議論が典型例だが,従来から非行との関連が高かった貧困・生活不安定層の若者に焦点を当てたものではない.本論文は,03年,09年に行ったインタビュー調査をもとに,貧困・生活不安定層の子どもから大人への移行過程の特徴とその変容を検討する.早期の学校からの離脱,非行を含む遊び中心の生活,不安定で困難な大人の生活への早期の移行が本人にとって身近な世界への「自然な移り行き」として進行していること.そして,近年,そうした移行を可能にしていた「受け皿としての第2部労働市場」が経済変動により縮小,不安定化しつつあることが明らかとなった.非行,犯罪の増加をもたらす主な要因の一つが「自然な移り行き」の困難化であり,対策,支援策はここに焦点化したものである必要がある.安定した雇用の減少が「希望の喪失」と非行,犯罪の増加につながるとする議論とそれにもとづく対策だけでは,貧困・生活不安定層が直面する困難に対処することは不可能であり,若者の多様な存在形態を踏まえた支援策が求められる.

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© 2010 日本犯罪社会学会
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