犯罪社会学研究
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長期刑受刑者の施設内適応
主観的健康感をめぐる検討
新海 浩之
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2020 年 45 巻 p. 81-94

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抄録

 長期刑受刑者は施設内で社会から忘れられ,研究の対象となりにくい.従来,長期刑受刑者が刑務所内に長く在所することで退行等の不適応が生ずると考えられてきたが,欧米の研究では,施設内の適応は,当該受刑者がもともと所持しいわば持ち込んだ性質によるものか,施設内での長期間の生活の影響により生じたものかという議論がなされている.本研究ではこの議論について,主観的健康感を適応の指標とし,在所期間の長短がそれに与える影響を実証的に検証した.無期刑受刑者と有期刑受刑者は質的に異なるとの結果から,それぞれについて検証したところ,有期刑の者については在所期間が主観的健康感に影響を与えない一方で,無期刑については在所期間が長いことが主観的健康感を押し下げる効果が確認された.しかしながら,検討した説明変数では主観的健康感全体のごく一部しか説明できておらず,刑期等の影響は限定的なものと考えられた.今後は,個人内の適応の変化を見るための縦断研究や変数間の非線形関係を前提とする分析が必要である.

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© 2020 日本犯罪社会学会
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