2020 年 40 巻 4 号 p. 485-492
剥離上皮膜を形成しやすい要介護高齢者に対する口腔ケアの間隔を検討するために,口蓋の剥離上皮膜の形成過程と口腔ケアに要した時間を検討した.
経管栄養の要介護高齢者のうち口腔乾燥の臨床診断基準(柿木)の1度以上の17名を調査対象者とした.入院記録より年齢,疾患,栄養摂取状況,寝たきり度を確認し,Japan Coma Scale,意思疎通の有無,発語の可否,介助歯磨きと粘膜ケアの頻度を担当看護師から聴取した.歯科医師あるいは歯科衛生士による専門的口腔ケア(歯面清掃と粘膜ケア)を実施してから3時間後,6時間後,12時間後,24時間後,48時間後に口蓋の付着物を観察するとともに一部を採取し,「なし」「粘液物」「粘稠物」「膜状物」の4種類に分類した.なお調査期間中は,病院職員による口腔ケアを中止した.通法に従い付着物のヘマトキシリンエオジン染色(HE染色)標本を作製し,上皮成分が認められたものを剥離上皮膜と診断した.さらに介助歯磨きと口蓋の付着物の除去を含めた粘膜ケアを行い,ケア時間を測定した.
付着物の種類ごとにおける上皮成分面積率の中央値は,膜状物が84.2%,粘稠物が45.0%,粘液物が0%で,すべての組み合わせで有意差が認められ,膜状物が最も上皮成分の面積率が高く,粘液物が最も低かった.粘膜ケアを行ってから3時間後は,52.9%に粘液物を認め,6時間後は35.3%に粘稠物,11.8%に膜状物を認めた.12時間後に膜状物は23.5%,24時間後に47.1%,48時間後に52.9%の者に認めた.膜状物は粘液物の形成時間より有意に長いことが認められた.膜状物を除去することを含めた口腔ケアの時間は粘液物よりも有意に長くかかることが認められた.口腔乾燥傾向のある経管栄養の要介護高齢者の粘膜ケアは,6~12時間の間で1回行うことが妥当であると判断できた.