日本障害者歯科学会雑誌
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症例報告
医療連携病院の依頼により日帰り全身麻酔下で緊急脱臼歯整復固定術を行った自閉スペクトラム症の一例
別部 智司今泉 うの安田 美智子黒田 英孝城戸 幹太
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2022 年 43 巻 2 号 p. 150-154

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抄録

知的能力障害児の歯の脱臼に対して,地域総合病院からの依頼で全身麻酔下治療を経験したので報告する.症例は8歳10カ月の自閉スペクトラム症男児.身長123cm,体重23kg.転倒して,上顎両側中切歯を完全脱臼した.病院救急外来に搬送されたが,泣いて自制できず協力が得られないうえ,口腔外科医不在で処置不可能と判断された.そこで全身麻酔可能な当院に電話連絡があった.口腔外傷以外の身体および神経学的異常はなく,脱臼歯の状態と最終摂食時間の確認後,歯を牛乳に浸漬して可及的すみやかに搬送を依頼した.両親に伴われて来院した患児の全身状態には問題なく,脱臼した歯槽骨および歯の保存状態も良好であった.全身麻酔下整復固定術が適応と判断した.両親の同意のうえ,術前検査後,ただちに全身麻酔を施行した.亜酸化窒素,酸素,セボフルラン循環麻酔,経鼻気管内挿管を行い,歯槽部のデブリードメント,歯牙整復固定術を行った.歯の固定にはファイバーリボンおよび光重合型接着剤を用いた.麻酔覚醒後,十分な回復を待って帰宅させた.本症例のような診療依頼はまれではあるが,歯科診療所は病院に比べて,歯科診療に手慣れていることから受け入れやすい.しかし,安全な医療提供のためには医師側からの身体的,神経学的な情報提供と,地域連携と相互の受け入れ態勢における情報共有の必要がある.

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© 2022 一般社団法人 日本障害者歯科学会
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