応用地質
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論文
遷急線分布による岩盤斜面の初生地すべり発生場の推定と変動に先立つ現象
小俣 新重郎
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2015 年 56 巻 5 号 p. 230-238

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抄録

岩盤斜面の浸食の進行や重力変形の事例をもとに,ゆるみから地すべりの発生に至る機構を検討した.遷急線が発達しその上方に緩斜面が残存する斜面では,引張強度に依存する上部斜面での重力変形が顕在化し,山腹緩斜面や線状凹地,斜面内部でのゆるみや風化がみられる.ゆるんだ斜面は下部斜面の圧縮強度や支持構造で支えられ,浸食,湛水,豪雨,地震などを誘因として下部斜面が破壊すると,初生地すべりが発生することが推定される.ゆるみに伴う変形構造は,流れ盤斜面では不連続面沿いのずれ変位と斜面下端部の座屈褶曲が,受け盤斜面では岩体のキンク,折れ曲がり,ブロック転倒回転,不連続面を乗り移る階段状のせん断破壊などが特徴的である.ゆるみに伴う塑性変形量は,全体に延性の大きい岩から構成される斜面や,概ね脆性の岩で構成されていても応力集中する斜面下端部に延性の大きな岩が分布する斜面などでは大きい.岩盤斜面のゆるみは段丘面の形成等の河川浸食のステージに応じて進行し,ゆるんだ斜面では密度が小さく透水性が大きくなるため,地山弾性波速度が小さく,自然地下水位や岩盤強度が低下する.

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© 2015 一般社団法人 日本応用地質学会
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