抄録
エチレンと 1-MCP が収穫後のリンゴ果実におけるデンプンの分解に及ぼす影響を明らかにするために,‘つがる’と‘ふじ’を用いて調査した.果実が未成熟な段階では,両品種ともにデンプンは貯蔵中(25℃)に急激に減少し,1-MCP はデンプンの分解に影響しなかった.エチレンはデンプンの分解をわずかに促進したが,処理間の差は小さかった.両品種とも処理にかかわらず呼吸速度は徐々に減少し,エチレン生成量は低いままであった.したがって,この段階では果実は内生および外生のエチレンに反応せず,デンプンの分解はクライマクテリックとエチレンに関係しないことが示された.成熟した‘つがる’では,1-MCP はエチレン生成,呼吸速度およびデンプンの分解を有意に抑制した.しかしながら‘ふじ’では,1-MCP はエチレン生成と呼吸速度を著しく抑制したが,1-MCP とエチレン処理がデンプンの分解に及ぼす影響は小さく,エチレン処理と無処理ではデンプン含量に違いは認められなかった.したがって,成熟した果実においては,エチレンは‘つがる’のデンプンの分解に部分的ながら関与し,それはエチレン生成と呼吸速度の増加をともなうが,‘ふじ’ではこれらの変化にエチレンは関与していないことが示唆された.これらの結果から,収穫後のリンゴ果実におけるデンプンの分解に対するエチレンの作用は果実の成熟段階と品種によって異なり,それは果実の成熟と生理的な特性に関係していることが示唆された.