園芸学会雑誌
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ブドウ‘マスカット•オブ•アレキサンドリア’における縮果障害果の組織学的観察と発生要因
中野 幹夫
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1989 年 58 巻 2 号 p. 289-296

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抄録
‘マスカット’の縮果障害果粒の組織学的観察から, 果肉組織及び維管束の異常と障害の発生との関係を考察した.
1. 障害の発生した果粒の果肉組織には糸状菌は認められず, また表皮にも異常は認められなかった.
2. “シミ”症状は果粒の周囲維管束に隣接した果肉柔組織にみられ, その組織は崩壊し, 空洞が生じていた. その付近の柔細胞には澱粉粒が認められた. 空洞の一部には, 新たに増殖した細胞によって埋められているものもあった. 崩壊した組織付近の維管束, とくに師管細胞は局部的に強い自己蛍光を発し, 壊死していると推察された. ‘ピッツテロ•ビアンコ’や‘巨峰’, ‘キャンベル•アーリー’でも同様の症状が観察されたが, ‘マスカット•ベーリーA’では観察されなかった.
3. “縮果”症状は果粒の基部に発現する. 果皮が褐変し陥没する“縮果型”では, “シミ”よりもより広範囲に崩壊した柔組織と空洞がみられた. “日射型”では空洞はみられないが, 組織はより広範囲に壊死していた. また, 果ていや果粒基部, 場合によっては小果柄の維管束が部分的にあるいは全面的に褐変していた.
4. “縮果型”の果粒では, 陥没症状のみられる側の果てい部付近の維管束が褐変しており, エオシン溶液を吸わせると, 色素は果てい部付近で全面的に留まるか, あるいは果粒の健全部側へは浸透したが, 症状側へは浸透しなかった. 障害の多発していた果房ヘエオシン溶液を穂軸から注入し, 各果粒を横断して観察したところ, その横断面に現れた全ての維管束に色素の浸透が観察された果粒は, 健全果粒の75%, “シミ”果粒の43%であり, “縮果”果粒では0%であった.
5. 樹上の果房の果ていや果粒基部にステンレス製のカミソリの刃を差し込んだり, フザリン酸を注入して養水分の転流を阻害したが, 縮果障害に類似した症状は発現しなかった. ただし, 果粒発育第II期の果粒へ鉄製のカミソリ刃を差し込むと黒色の類似障害が発生した. これは鉄製の刃と果粒の成分との反応によるものと思われる.
6. 以上の結果から, 縮果障害は単に一部の維管束の転流機能が阻害されただけでは発生せず, なんらかの毒作用的な障害によって発生するのではないかと思われた.
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