水文・水資源学会誌
Online ISSN : 1349-2853
Print ISSN : 0915-1389
ISSN-L : 0915-1389
原著論文
水田の蒸発散·光合成特性と水利用効率に関する研究 (II)
——多層モデルを用いた数値シミュレーションによる水田の熱収支特性と水利用効率の検討——
大上 博基
著者情報
ジャーナル フリー

2003 年 16 巻 4 号 p. 389-407

詳細
抄録

前報 (大上, 2003) で構築したイネの気孔コンダクタンスモデルと個葉光合成モデルを組み込み, 既報の多層微気象モデル (Oue, 2001) を改良した. 改良点の一つは, 植物体の陽側と陰側の熱収支を表現したことである. モデルによる計算の結果, 日射の透過率, 風速, 気温, 湿度, 植物体表面温度の鉛直分布は, 水田群落内部と上部におけるそれらの観測値をよく再現できた. イネ群落における熱収支の特徴の一つ, すなわち, 主として夕方の時間帯に顕熱フラックスがマイナス値となり, それが潜熱フラックスのエネルギー源となることが, モデルで再確認された. また, 陰葉の顕熱フラックスはほとんどのケースでマイナス値であったことがモデルによる計算で示され, 水田におけるマイナスの顕熱フラックスには陰になった葉が大きく貢献することが明らかになった. 層別水利用効率 (WUEc) の鉛直分布を検討した結果, 葉面に入射する日射が十分に大きい場合と逆に十分に小さい場合に, WUEcが比較的低くなった. したがって, 葉面積密度がある程度小さい場合と大きい場合に, WUEcが低くなると予測された. すなわち, WUEcを最大にする葉面積密度の存在も示唆された.

著者関連情報
© 2003 Japan Society of Hydrology and Water Resources
前の記事 次の記事
feedback
Top