水文・水資源学会誌
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原著論文
二次元浅水方程式を用いた複雑な土地被覆下での洪水氾濫解析 : 実用上の諸課題について
張 新華大石 哲石平 博竹内 邦良
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2003 年 16 巻 5 号 p. 501-517

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抄録

破堤による洪水氾濫シミュレーションには二次元浅水方程式がよく利用される. シミュレーション結果は, 低解像度のDEMを利用した場合, 局所的な複雑な地形, 土地利用状況, 植生, 建物等の障害物を表現できないため, これらの影響を強く受ける. この問題に対して, これまで以下のような方法が用いられてきた. 1) 全領域に詳細なメッシュの使用 : この場合, 計算負荷は大きく, 制御不能な場合もある. 2) 任意間隔のメッシュの使用 : メッシュサイズが詳細であっても無意味なセルが残る. 3) local grid refinement method : 1) 2) の問題を軽減するために近年盛んに研究されているが, 細かいメッシュの計算に用いる境界条件として, 細かいメッシュと重なる粗いメッシュ上の値のみを用いるため, メッシュが重ならない部分に関する粗いメッシュの情報を十分利用していない. そこで本論文では, 対象領域内に窪地や高地, 或いは水面勾配が急激に変化するような局地的なメッシュをより正確に反映し, シミュレーション精度を改善するための新たなネスティング手法を提案した.
二次元浅水方程式のマニング係数は, 地表面の粗度, 障害物等を表す係数である. そこで, 洪水氾濫原における植生, 建物等の影響をマニング係数に反映させる手法を検討した. 我々は, 解像度1mのIKONOS衛星データを用い, 画像解析ソフトウェア (ERDAS-IMAGINE) による教師つき分類から250m DEMのメッシュごとの植生, 建物の面積率を抽出した. そして, 以上の面積率に基づき, 氾濫原におけるメッシュごとの粗度係数を推定した.
シミュレーションの結果より, 以下の結論が得られた. (1) 新たなネスティング手法の適用性が実証された. (2) 画像度1mのIKONOS衛星データより, マニング係数空間分布のパラメータ (面積率) を推定することができる. (3) 植生, 建物は氾濫シミュレーションに大きく影響する. (4) ポンプの作用は洪水氾濫状況を軽減するために非常に有用である. これらの結論は, 甲府盆地における笛吹川と荒川から得られた結果であるが, 他地点への適用性も有するものと思われる.

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© 2003 Japan Society of Hydrology and Water Resources
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