水文・水資源学会誌
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原著論文
GISを用いた新疆における水資源の動態変化に関する研究
デリヌル アジ近藤 昭彦
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2006 年 19 巻 4 号 p. 280-291

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抄録

新疆ウイグル自治区における主要な水資源は地表水,地下水と氷河である.その中で,主に夏季に限られている降水と高山からの融雪水によって新疆の農業生産は維持されてきた.一般には,人口増加による農業生産量の増加が更に水不足を助長し,水資源が減少すると考えられて来た.一方,最近の河川における流出量変化と湖における水域面積の変化は,必ずしも新疆の水資源の減少と気候の乾燥化に結びついていない様である.そこで, Lake Wulungu, Lake Ayding, Lake Bostan, Lake Ebnur流域を対象とした衛星データ解析,新疆の26河川における過去50年間の水文観測データ,気象データセットおよび新疆地方誌と最近20年間の新疆統計年鑑に記載された資料に基づき,人間活動と気候変動の両面から,新疆における水資源の動態変化について考察した.その結果,1980年代の後半を境に,1950年代の前半から1980年代の後半までの間と1980年代の後半から現在に至る間で,新疆における水資源の時空間変化には大きな相違があることが確認できた.すなわち,1950年代の前半から1980年代の後半までは人間活動の影響が強い時期であり,それは人口増加及びそれにともなう耕地面積の増加,水利施設の建設により,河川流出量の減少,河川下流における流出量の減少または断流,湖における水域面積の縮小と涸渇として現れた.1980年代の後半から現在に至る期間は,節水意識の高まりとともに,気候変動の影響が認められ,降水量の増加が河川流出量の増加,湖における水域面積の拡大として現れた可能性がある.新疆の水資源である河川流出量と湖の水域面積の変化は気候に代表される自然要因と人間活動要因の両方の影響を受けているため,新疆の農業生産の持続性を考察するには両方の視点が重要である.

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© 2006 Japan Society of Hydrology and Water Resources
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