我が国の郊外で一般に見られるアカマツ林では,管理放棄のため下層植生の侵入が顕著となり,陽樹林から陰樹林への二次遷移が進行しつつある.本研究では,そのような森林における植物の水利用戦略を知るための一助として,同位体トレーサー手法を用いて,アカマツおよび共存植物種の利用水源の評価を試みた.その結果,先行植生であるアカマツは深層土壌水もしくは地下水,侵入植生であるシラカシは表層の土壌水,そして下層植生のアズマネザサは両者の中間領域の土壌水を,それぞれ利用していることが判明した.すなわち,本調査地においては異なる植物種間で利用水源の分化が生じていた.乾燥気候下だけでなく,湿潤気候下においても水源分化が生じ得るという事実は,生態系と水循環の相互作用を解明するうえで重要と思われる.