斜面土層は,降雨に対する洪水流出応答を作り出す準定常システムとして機能する.そこでは,洪水流の応答は,降雨が十分に与えられることで土壌内に湿潤な部分がつながって成立する水理学的連続体における圧力伝播によってもたらされ,一段タンクモデルで再現される単純さを特徴とする.しかし,この連続体を構成する流出経路は,不飽和帯の鉛直浸透流,斜面方向への地下水流で構成され,不均質で多様である.こうしたコントラストは,活発な地殻変動に支配されている急斜面上の土層発達過程から必然的にもたらされている可能性がある.洪水流出予測の研究手法は,こうした圧力伝播の観点から洪水流出応答を捉え直すことにより変革を余儀なくされるであろう.