水文・水資源学会誌
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原著論文
東南アジアの洪水常襲地帯における住民の災害対応と支援の関係
タイとミャンマーの比較分析から
田平 由希子川崎 昭如
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2017 年 30 巻 1 号 p. 18-31

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抄録

 本稿では,東南アジアの洪水常襲地帯における住民の災害対応と支援の関係を社会的経済的背景を踏まえて分析した.アンケート調査をタイとミャンマーの研究対象地で実施した.共通点は,非貧困層と比べて貧困層は強度の低い家に住み,浸水深と浸水期間がより深刻である.両地域で異なるのは避難率と災害準備率,支援受領率である.ミャンマーではインフラの未整備,強度の低い家屋,蓄えが乏しい家計,支援物資の配布方法が貧困層の避難率を高くしている.タイはミャンマーより支援受領率が高く内容も多様で,貧困層と非貧困層の間で受領率の差がないが,ミャンマーでは支援対象は貧困層であるため非貧困層の受領率が低い.結論として,中所得国のタイでは,ある程度インフラが整い,行政による早期警報,緊急支援が機能するが,世帯の経済状況に依存する項目(家屋,災害準備,復旧)に格差が見られ,貧困層の経済状況の改善が地域の災害回復力強化に有効である.低開発国のミャンマーでは,蔓延する貧困とともに,インフラ未整備,行政能力の不足,防災知識の欠如が,災害対応力を低くしている.状況の改善のためには貧困対策だけではなく,能力開発などを含めたより多面的なアプローチが必要である.

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© 2017 Japan Society of Hydrology and Water Resources
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