降雨に伴う渓流水のNO3--N濃度とそのδ15N値の変動を測定し,渓流水のNO3--N濃度が変動するメカニズムについて検討した.渓流水のNO3--N濃度の変動は,流出量と正の相関が認められ,流出量の増減に対応していた.しかし,渓流水のNO3--N濃度上昇期と低下期で,δ15N値の変動が異なった.濃度上昇期において,渓流水のδ15N値は, 0.2‰から-1.4‰へわずかながら低下する傾向にあった.これは,降雨に伴い表層土壌中のNO3--Nが渓流へ流出する事によって説明される.一方,濃度低下期には,δ15N値は-1.2‰から6.0‰へ,NO3--N濃度の低下に対して指数関数的に増大した.この濃度低下期の渓流水のNO3--N濃度とδ15N値は,土壌中のNO3--Nの混合として説明することは困難であったが,土壌中で脱窒が進行する場合のレイリーの方程式と完全に一致した.したがって,流量低減期に渓流水のNO3--N濃度が低下したのは,降雨により形成された飽和帯内で,脱窒が起きたためと考えられる.