1993年6月から9月まで凍土地帯であるチベット高原タングラ山域の土壌水分条件が異なる2地点(裸地とアースハンモックのある草地)で,融解面の深さに代表される地表層状態の違いが蒸発量に与える影響について観測した.両地点では,草地の方が土壌水分が多く,融解面は浅い.観測期間は,自然蒸発量の飽和蒸発量に対する比(蒸発比)から6月20日前後で区分でき,それぞれプレモンスーン期(乾期)とモンスーン期(雨期)に対応した.両地点では,乾期の蒸発量には土壌水分不足による蒸発抑制が見られた.乾期の平均蒸発量は裸地で2.1mm/d,草地で2.6mm/dとなり,雨期には両地点とも3.3mm/dとほぼ等しくなった.チベット高原でも降水量が多いこの地域は,雨期にはいる前の乾期には地表層状態に依存する場所による蒸発量の違いが見られるが,本格的な雨期に入ると,そのような傾向は見られなくなる.乾期の総蒸発量は雨期の総蒸発量に比べ少ないので両期にわたる暖候期の総蒸発量は場所によって大差ないことがわかった.