1999 年 12 巻 6 号 p. 511-516
全世界の実験流域において観測された年間および月間の水損失量,すなわち降水量から流出量を差し引いた残差のデータを収集してデータベースとして蓄積し,WWWを通じて公開した.年間の損失量は年間の実蒸発散量と見なすことができ,このデータベースを地理情報システム(GIS)で運用することによって,実蒸発散量の全球分布を描くことができる.重要な点はこのデータベースが観測事実のデータベースであるという点である.今後,フラックスを計算するモデルの検証データ,あるいは衛星リモートセンシングのグランドトゥルースデータとして利用できる可能性がある. このデータベースの運用例として,年蒸発散量を年降水量に対してプロットした図を示した.年蒸発散量は年降水量の増加に伴い,ほぼ1:1の直線に沿って増加するが,ある年降水量からこの直線を離れる.この点は地域によって異なり,その地域の水文環境を支配する重要なパラメーターである.また,湿潤熱帯における最大年蒸発散量は約1,800mmであり,最大値に達した後は降水量の増加に伴って蒸発散量は現象するように見える.これは降水量の増加が正味放射量の減少に結びつくためと考えられる.