2002 年 15 巻 3 号 p. 253-263
LES(Large Eddy Simulation)モデルを用いて水平一様な植生キャノピー層を含む中立接地境界層の3次元シミュレーションを行い,渦相関法による点計測フラックスの空間代表性に関する検討を行った.それに基づいて,渦相関法によるフラックスが熱収支から要請されるフラックスに比べて過小評価となるいわゆるインバランス問題の原因に関する考察を行った.その結果,次のことが明らかとなった.(1)渦相関法による点計測フラックスは,対象領域が水平一様で平坦であっても,空間的なばらつきが±50%程度もありうる.(2)対象領域内に何らかの原因で定在的な流れが存在し,その流れがスカラー量の場と相関をもっている場合には,点計測フラックスでは系統的に負のインバランスが生じる.そのインバランスの大きさは,定在的な流れによる輸送量が大きいほど大きくなる.(3)機械的原因で定在的な流れが形成され,それがインバランスの原因となっている場合には,インバランス率(フラックスの評価誤差を真のフラックスで規格化したもの)の大きさは風速には依存しない.(4)大気安定度が中立なとき,キャノピーの存在は負のインバランスを減少させる働きがある.(5)地表面が平坦な場合には,座標変換やLee(1998;Agric. Forest Meteor.)による鉛直移流補正の手法ではインバランスをなくすことはできない.